建築は「諸芸術の母」    だから、国を挙げて建築家を育てる

藤森修さん藤森修建築設計室・東海大学准教授

 教育先進国として注目されている北欧諸国。2003年にデンマークの建築家大学を卒業し、建築家として認定された藤森修さんは今年の2月末から3月初めにデンマーク国内の大学を訪問。日本の学生とのレベル差は顕著だという。日本の学生を世界レベルに押し上げるような教育システムづくりのヒントはあるか?
デンマークで建築家を目指すには、コペンハーゲンの王立アカデミーか、国立オーフス建築家大学のどちらかを卒業しなければなりません。

 母校であるオーフス建築家大学は、約1,000人の学生が在籍しています。入学するには高校卒業時の成績を問われるルートと、専門学校や総合大学、社会経験などを経て、約4日間の入学試験を受けるルートがあります。入学試験ではアートの実技、面接官のユニークな質問への芸術的な返答を求められます。近年の合格者や審査員に聞くと、プロ級のデッサン力のある人ではなく、あくまでも可能性のある人材を選ぶようです。

デンマークの教育システム
 学費は無料で、学生は親から一切の生活費を受けず、国から毎月奨励金が支給されます。学生の年齢は高く、最年長は65歳。半数以上が女性で、在学中に家庭を持ち、託児所に子どもを預けて通学するのは一般的です。
大学では非常勤講師を除き100名程度の教員が登録されています。多くは海外勤務を含め実務を経ており、他の環境での経験が重視されています。教員は「先生」ではなくインストラクターのような存在。常に小グループに分かれて、学生一人一人の才能が広がるように個別指導します。
 バリアフリーの意識が根ざしているので、教室には教壇がありません。丸く机を囲んで、その一席に教員が座るというヒエラルキーのない環境です。また、学生はスタジオ内に机2つと簡易収納が割り当てられ、そこで夜遅くまで作業を行っています。
デンマークでは、建築は「諸芸術の母」とされており、2年次まで共通の建築設計の課題を行いますが、それ以降は建築、家具、グラフィック、プロダクト、ランドスケープ、歴史的建造物の補修・修復などの11種にわたる専門分野に進みます。
 建築構造や設備はテクニカルスクールでしか学べないため、入学前に進路を定めておく必要があります。設計課題の期間中、担当教員が構造や設備の専門家を呼び、学生のデザインが構造的に成立するよう、打ち合わせる方法がとられています。
また、学生の進級を決める審査会では、議論が正当な方向に進んでいるかをチェックするシステムとして、審査対象となる学生は一名の学生を指名し、審査会に同席させることができます。審査を受けた学生は後に議事録の入手も可能です。

卒業=建築家認定の証し
 オーフス建築家大学では、建築家の認定は日本の文部科学省に相当する機関が選択した審査員を交え、最終学年(5年次)の試験(ディプロマ)にて行われます。生涯3回挑戦でき、パスすれば卒業と同時にデンマーク建築家協会への入会資格が与えられます。ディプロマに取り組む学生は非常にナーバスになるため、自らが指名した教員のほか、必要であればメンタルケアを行う担当者まで学校から与えられます。また、34年次の終了後にインターンを数年経験する学生が多いため、卒業後に即事務所を構える人は少なくはありません。
 過去には銀行で順番待ちをしていると、建築家というタイトルを添えて名を呼ばれたといいます。私も建築家と認定された次の日から、ほとんどの郵便物の宛名にARKITEKTと加えられていました。小国ゆえ行動が早いのかもしれません。バイキングの時代は小高い丘に登り火を燈せば、デンマークの群島中に炎を掲げる掛声がわずか数十分で伝播したといいます。タイトルとは身分や職業を便宜的に示すだけでなく、「建築家としての倫理と誇りを持ち続けるべきだ」という掛声なのでしょう。

ふじもり・おさむ|1969生まれ。1994年芝浦工業大学修士課程終了。2003年国立オーフス建築家大学卒業。デンマーク建築家協会会員。北欧建築・デザイン協会理事。東海大学(旭川校舎)准教授、明治大学兼任講師、東京デザイン専門学校講師。藤森修建築設計室代表